19970423 of Yasushi's Life


安全と水は只じゃない (April 23, 1997)

ペルーの日本大使館の人質事件が解決した。犠牲になった最高裁判事、特殊部隊の隊員2名のご冥福を心よりお祈りいたしたい。

新聞、テレビなどのメディアがいやになるほど繰り返している、今回の事件を巡る問題点とは日本人の危機管理に対する考え方と、テロリズムに対する対応の仕方であろう。

前者については、事件発生当時の日本大使館の警備状況を分析しうる立場にいないことから具体的に何らかの意見をさしはさむつもりはないが、一般論としては日本人が安全がどれほど高価なものかを認識していない国民であるという事実を多くの人に理解してもらいたいと思う。

日本は世界で一番治安の良い国だと言われるが、これはほぼ間違いのない事実であろう。そもそも地下鉄の中で酔っ払って寝ることができ、夜中に女性が一人で歩けるといった国を探すほうが難しいはずだ。私自身、海外から日本に戻ってくるとほっとして無意識のうちに高めていた緊張感が緩むのがはっきりと体感できる。

こういう治安の良さが災いして、世界中どこに行っても自分が普段暮らしている日本と同じ治安が維持されているという発想を無意識にしてしまうのだろう。あるいは、危険に備えた体勢をとりつつ暮らすということ自体ができないのかもしれない。

ほんの僅かな気配りが自分の命を救うという事を覚えておいてもらいたい。例を挙げてみよう。

みだりに多額の現金を所持しない。
極力地元の人と同じような服装を心掛ける。
金目の装飾品を身に付けない。
荷物を手放さない。
現地に到着したら、まず治安状況を確認する。
人気の無い場所には足を踏み入れない。
周囲の状況に常に気を配る。(おのぼりさんの様にキョロキョロしてはいけない。)
見知らぬ他人が接触してきても無視する。
夜間の単独行動は控える。
常に自分の行動予定を誰かに伝えておく。
酩酊するほど酒を呑まない。

どれもこれも読んでみるかぎり簡単なことだ。しかし、こういった簡単なことを実行することがなかなか日本人にはできないようである。短期間の旅行で国外に出る人がほとんどであろうから、旅行の最初から最後まで気持を緩めずに、意識的に行動してもらいたいものだ。海外で生活する人はいちいち意識していたら気が狂ってしまうので、無意識のうちにこういったポイントを押さえて暮らせるようになる必要があるだろう。

さて、次は日本のテロリズムに対する対応である。

今回の強行突入では、犠牲者の数は極めて少なく、加えて日本人犠牲者が出なかったことから、政府、各政党、企業団体のトップ、世間一般も「強行突入はやむをえなかった。」というトーンに傾いているし、フジモリ大統領の英断を支持するという発言もでている。

ではもし、人質の殆どが犠牲となり多数の死傷者がでるという結末を迎えていたとしたら、「強行突破やむなし」というトーンになったであろうか、または同じ様な発言がなされてただろうか?

多分答えはNoであろう。

「強行突入はやむをえなかった。」という発言の裏には「(犠牲者の数も極めて少なかったし、日本人犠牲者も出なかったし、結果的に見れば)強行突入はやむをえなかった。」という結果論が隠れているように思われる。世間一般がこういった考え方をするのは衆愚政治の常で致し方ないことであろうが、政治家、企業トップが同じような発想をしているというところが日本の国際地位が高まらない所以であろう。

日本はかつてダッカのハイジャック事件で超法規的措置という法律を学んだ者としては自らのレーゾンデートゥールを否定されるような対応で、連合赤軍のメンバーを釈放して以来テロに屈した国というレッテルを国際社会において貼られていた。それは「日本人が助かればテロリストを世界中にばらまいても良いのか?」という問いかけであろう。

今回の事件で日本政府が繰り返していた「平和的解決」なる言説は諸外国から見れば「とりあえず日本人の犠牲が出ない平和的解決」という風に理解されていたに違いない。少なくとも私はそのように感じていた。もっと極端に言えば「とりあえず日本人の犠牲が出ないで事件が解決すれば、有権者である日本国内の世論は満足するし、後はテロリストが野放しになってペルーで更に多くの犠牲者が出るという状況になったって知るもんか、それはペルーの問題でしょ。」という発想が「平和的解決」には含まれていたはずである。

残念ながら今回も日本はテロに屈した国というレッテルを剥がすことができなかった。喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、そうならずに今回の事件を契機にテロリズムという字のごとくテロルを武器にして人々を傷つける集団に対して、日本の国民が世界市民としてどう対応すべきなのかを徹底的に議論し、テロリストに対しては断固とした対処をし、それを具体的に裏打ちする制度的な準備(対テロリスト部隊の拡充など)を行うというナショナルコンセンサスを作り上げる必要があると痛感する。

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