おそるべしIBJ (April 30, 1997)
今日知り合いの編集者と昼飯を食べた。
その時に彼がくれた本が「金融常識革命 日本版ビッグバンを生き残るために」(大野 克人 著、(社)金融財政事情研究会刊)である。「面白いですよ」という彼のコメントに興味を持った私はさっそく家路につきがてら電車の中でこの本を読み始めた。
巻頭の「はじめに」にいきなり知り合いの編集者の名前がでていて驚く。彼が担当した本だったのか。それはさておき。
本書は一言で言うと、金融市場におけるグローバリゼーションが進展し、アメリカ流金融常識が世界のルールとなってきている中、日本の金融機関のみがローカルルールによる日本の常識に囚われていてはならないという認識を底流として、個別具体的なファイナンスに関する基本的概念を分析している書である。
ファイナンスに関係ない人にとっては相当テクニカルな話にまで踏み込んでいる関係上、本書を手にしたとしてもなんのことやらさっぱり内容がわからないという事があるかも知れないので、一応金融関係者、それも金融を真剣に考えている人にお勧めしたい本としておこう。
個別に書かれている内容は、まさにその通りだ!という感じであり、日本の金融機関にとって欠落しているグローバルスタンダードからの視点で日本のファイナンスを丁寧に分析し、それを再構築し将来の展望を提示したものとなっている。私自身のファイナンスに関する考え方を整理するうえで大変役に立つ本であるという印象を受けた。
しかし、私が本書を読んで最も感動を受けたのはその内容もあるが、むしろその著者である。
私は本書の具体性ならびに、いわゆるアメリカ流のグローバルスタンダードの理解の深さから、当然若手から中堅クラスの留学経験、あるいは海外勤務経験があるIBJスタッフが共著でしたためたものだと思っていたのだが、なんと著者の大野克人氏は日本興業銀行の取締役ファイナンシャルエンジニアリング部長であった。
正直なところ、IBJおそるべしである。
一体日本の金融機関と呼ばれる会社の取締役でこれだけの内容の本を執筆できるほどグローバルスタンダードでのファイナンス理論を理解している人が何人いるだろうか。普通はボトムアップで下から上がってきたサマリーとも呼ぶべき書類に目を通し、社内外の調整に力点を置いて思考するというのが今までの金融機関の経営陣の典型であり、今も多くの経営者がその類型に従っていると言うのが現状である。
そこではトップの主体的な戦略による経営の方向付けは希薄である。しかし今後控えているビッグバンではそんな悠長なことを言っている余裕はないだろう。経営陣自らがファイナンス理論に精通し、企業の進むべき方向を主体的に提示していかなければ生き残れない世の中が来るのだ。
こういう人が経営陣にいる銀行はビッグバンがこようが、世界を相手に戦おうがきっと生き残れるはずだ。IBJの底力の一端を垣間見たような気がする。