19970606 of Yasushi's Life


哀れな銀行員 (June 6, 1997)

土砂降りの雨の中を銀行員とおぼしき人が雨がっぱを着て自転車を止め、重たそうな鞄をさげてお客さんのお宅を訪問している姿が目についた。その姿に商法違反で逮捕された第一勧銀の総務部副部長がうつむき、手で報道カメラのフラッシュ洪水から顔を隠しながら車で走り抜けていく姿が重なった。

この二人に共通することは、二人とも一生懸命銀行の為を思って働き、上司から与えられた目標を達成しようと遮二無二働いてきたことだろう。でも片方は犯罪の容疑者として逮捕され、日本中のテレビ画面にその哀しい姿をさらしてしまっている。

逮捕された彼は総務部の副部長という重責を担うエリート銀行員だったはずだ。一流の大学を卒業し、支店で実績を残し、銀行組織の中枢の一つである総務部に転勤し、重役を目指していたはずだ。それが一瞬にして総会屋という反社会的な集団に加担したというレッテルを貼られた犯罪者となり、自宅が家宅捜索される映像がニュースに流れ、自殺防止のためネクタイとベルトをはずされて拘置所に拘留されるのである。

そういった彼を待っているのは、彼がその全てを捧げてつくした銀行からの冷たいコメントである。「組織ぐるみの犯罪ではなく、総務部門の独走であります。」と。追い打ちをかけるように待っているのは懲戒免職という破滅した銀行員人生と世間の冷たい視線だ。

何人のサラリーマンが、自らが会社を守り抜くという幻想に踊らされ、「おれが責任をとる」と言って犯罪行為に手を染めたのであろうか。贈賄、談合、利益供与、脱税、例を挙げれば数限りない。

そんな誤った考えをもったことがある人達に伝えたい。会社という存在に名を借りた経営者に利用されているだけであり、一旦事件が表面化した時に一番最初に切り捨てられる蜥蜴の尻尾はあなただと言うことを。「出所したら金バッチだ」と言われて幹部の身代わりに逮捕されるチンピラと同じことをしているのだ。

所詮、日本の大手金融機関は暴力団と何ら変わらるところがない腐り切った組織であって、それをオブラートで包んでいるだけなのだ。人が守るべき最低限のルールである法律すら守れない存在、よっぽど暴対法で指定暴力団にでもしてもらった方がよいだろう。

ビッグバンなどと能書きをたれる前に、違法行為撲滅のために強力に独立したcompliance officeを設けるなどの性悪説に立った内部牽制の組織改革が必要だろう。そうすれば第一勧銀の総務部副部長の様な哀れな存在が再び生まれてくることを防ぐことができるはずだ。もっとも、体面と法律を天秤にかけると体面の方が重いと考えるトップがいる限り、こんな改革は不可能だろうが。

今回の第一勧銀の副部長の哀れな姿は強烈なメッセージを日本中の銀行員、特に取締役の席というニンジンを目の前に吊る下げられている世代に伝えている。

「守るべきものは組織の体面ではなく、人としての矜恃である」ということを。

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