究極のくどき文句 (May 10, 1997)
ちょうど1週間ぶりの「言いたい放題」である。
今週は4月に引き続いてハワイ出張に出かけていたので「言いたい放題」をアップデートする余裕がなかった。やっと日本に戻ってきて時差ボケと戦っている中でこれを書いている。
ハワイ出張の帰りの飛行機の中でトム・クルーズ主演のAgentという映画を見た。何億円、時には何十億円という報酬を手にするアメリカのプロスポーツ選手のAgent(代理人)が一つの産業となっている。所属チームとの交渉、コマーシャルのプロモーション、そして時にはプレー内容、生活スタイルまでもをアドバイスするのがAgentである。日本ではプロ野球がAgentを認めていないのでほとんど一般的でないが、Doctor Kこと野茂が大リーグで活躍するのを支えているDan Nomura氏のやっている仕事である。
大手Agent会社で将来を嘱望された有能なAgentであるトム・クルーズが、一人の選手のけがをきっかけにして大会社での選手とAgentの表面的な関係に疑問を抱き、会社全員に自分の思いをまとめたレポートを配る。しかし、それが理由で会社を解雇され、ぱっとしないフットボール選手だけをクライアントとし、彼の書いたメモに感動したバツ一子連れの秘書1人を連れて独立する。
独立後は仕事で失敗し、美人ガールフレンドに捨てられ、辛い日々を送るのだが、秘書のサポートが助けとなり、その秘書と結婚する。ところが、出張に次ぐ出張の日々の中で彼女との関係もおかしくなり、離婚の危機に直面する。その一方でクライアントであるフットボール選手は突如大活躍を続け、所属チームがスーパーボールへのチケットをかけた試合の最終場面で逆転をかけたパスをキャッチするが、その直後意識不明に陥り...といったストーリーである。
最後はハッピーエンドになるわけである。そういう意味ではtypical American movieであり、個人的にHappy ending American movieとB級American movieが好きな私としてはそこそこ楽しめた映画である。
まあ、長々とストーリーを説明してしまったのだが、本題は映画の中の台詞である。とても印象に残った台詞が一つあった。言うなれば究極のくどき文句である。トム・クルーズが結婚した秘書が離れていくのをひきとめる際のシーンで
男:"You complete me."
女:"Shut up!"
big hug and kiss....
I love you.でもなくI need you.でもない、ましてやI thirst for youでもない。主語はIでなくてYouであるところがこのフレーズのミソである。よくあるフレーズとしては"We are meant (for each other)."というのもあるが、これもどうも赤い糸的な運命に力点がおかれていて、あんまり人と人との関係に光があたっていない。
そういう意味でこの"You complete me."というのはお互いの存在やら関係の良いところ悪いところを全部ひっくるめて、それでも相手を必要としているんだよという思いがとってもうまく伝わるフレーズである。completeという単語をこんな風に使うのかという事を新鮮な驚きをもって学んだわけである。
日本公開ではどんな日本語訳になるのか見当もつかないが、この語感をうまく伝えるのには苦労するだろう。戸田奈津子さんにはがんばってもらいたいと思う。