
(Last modified on June 2, 1995)
今の企業と従業員が抱えている問題点というのは従業員の労働力とそれに対して支払われ
ている対価のアンバランスではないかなと思います。もっと下世話な言い方をす れば、「俺のほうがこんなに働いているのに、あんなに仕事しない奴と同じ給料で納
得いかねえよ」と言うことなのでしょう。
それでは一体全体個々人の能力の違いはどのような形で現われてくるのでしょうか? 多分それは昇進のスピードの違いといったもので現われてくるように思います。でも 、日本の多くの大企業がそれほどドラスティックな形で昇進のスピードに差を付けているので しょうか?20代の管理職という話を日本の大企業ではオーナー企業を除いてほとんど聞いたこのとはありません。
ということは本当に能力がある人は「将来の出世」なる不確定なものを対価に(エサ に?)実際の評価以下の支払しか受けていないということになってしまっていると考 えられなくもありません。このようにして優秀な人材を低い賃金(本来支払われるべ き水準よりも低いという意味)で働かせることが出来たのが日本の大企業の高成長 の理由なのかもしれません。
このような図式はホワイトカラーの労働市場が流動化する前ならば十分機能したでし ょうが、外資系企業の進出によるスペシャリストなどへのヘットハンティングを 引き金として労働市場の流動化が進みはじめている現在の状況を考えれば今後この図 式が機能し続けるとは到底考えにくいものであります。
一度労働市場が流動化しはじめれば、優秀な人材は自分の能力に見合った報酬を求め 移動しはじめるでしょう。かなりの数の優秀な人材がすでに転職をはじめているのは否定できない事実のように思えます。
このような現状のなかで日本の大企業がとりうる選択肢としては2つのものがあると思 われます。
1つは労働市場の流動化を見越し、能力重視への人事政策の変更をドラスティックな 形でを行なうことであります。これには現状の単純な職種のみの給与テーブルをより 細分化(終身雇用に重きを置くのか、それとも単純に給与の支払額の増加を望むのか 等)したものへと変更することが含まれます。これを選択する場合には既存のゼネラ リスト中心の人事ローテーションの変更、支払人件費の増大を防ぐために職種変更に よる一部の人員への支払給与削減など極めて大きな摩擦が生じる恐れがあります。
もう1つは、現状のまま何も施策をこうじることなしに、というよりも労働力市場の 流動化を認識しないばかりに旧態依然とした人事体形を継続することです。「うちの ような優良企業をやめたいと思う奴がでてくるわけがない」という言い方にも換言で きると思います。この方向をとれば、当面のところは引き続き実際の支払額以上に優 秀な人材を保持していけるものの、流動化の進展にともない徐々に優秀な人材を失っ ていくということでしょう。
「感度のいい経営者」と言うのは前者の選択肢を選択しようとしている人達なのではと思います。日本の保守的な企業風土の中でどれほどのことが出来るか見物ではありますが、多少の摩擦を承知で人事政策の 変更に踏み切ることができた企業のみが今後の自由化の競争を生き残っていける ような気がします。
最後に、「それでは何をもって優秀な人材というのか?」という問題点が残ります。 今の大企業のゼネラリスト指向の人事体形のなかでは、一つの企業のなかでうまく働け る人というのはその企業からは当然高く評価されるべきなのでしょうし、半面そのよ うな人は他の企業から見れば全く汎用性がないために決して優秀な人材とは見なされ ないでしょう。
全く逆にスペシャリストはゼナラリスト指向の企業からは専門屋としか評価されない でしょうし、そのかわりどこの企業であれそのスペシャリティーが必要なところであ れば評価されるでしょう。
ようは自分は誰にとって優秀な人材なのかを認識することなのではないでしょうか。 あるいは、自分は誰にとって優秀な人材になろうと考えているのかということなので しょう。自分に要求されているニーズを素早く認識してそれに応えることができる人 材はどこに行ったとしても優秀な人材であると考えられるはずです。
企業側も従業員に対して何を望むのかを個々の従業員毎に明確に打ち出すべきでしょ うし、そのためには人事評価の内容を当人に対して秘密にしておくやり方は1日も早 く廃止すべきでしょう。プロ野球の年俸更改のような制度が取り入れられれば、自分 は何ができるのかをはっきり知ることによって「何をもって優秀な人材というか?」 というような疑問もなくなるような気がします。
「休まず働かずのフリーライダー社員からの感情的な反発」を考えると、従業員の側からは意志を集約して言いだせない内容でしょうから、企業のトップの英断が望まれる分野なのでしょうね。